2009年1月2日金曜日

「知床横断鉄道」への夢



 早起きしてテレビをつけたら「世界SL紀行」という番組を放送していた。スイスの山岳鉄道とルーマニアの森林鉄道が紹介されていた。経済性や採算だけでなく、文化=産業遺産として鉄道を今でも大事にしていることがよく伝わってきた。
 昨年末、「知床自然大学検討会」で斜里町の人々と語り合った時、斜里町と羅臼町を結ぶ交通機関として、知床横断鉄道の必要性をあらためて感じた。昨年の春、「レールライフ」という鉄道雑誌に書いたものだった。お正月だ。夢のある話もいい。
                     (イラストは 山富士ままこさん)


 1.なぜ、知床に鉄道を、と考えたか。
  知床半島は2005年、世界遺産条約に登録され注目を集めた。それは一時の観光客誘致の手段ではない。この地域の自然環境を未来にわたってより良い状態で継続させる必要がある、という人類共通の意志が示された、ということである。
 現在の知床では一部の観光スポットに来訪客が集中し、自家用車は飽和状態である。

2.知床鉄道の概要
 「知床鉄道」は次に二つの路線からなる。
  ①斜里・ウトロ・幌別台地・カムイワッカを結ぶ普通の鉄道(JR線)
  この路線は、ウトロを訪れる観光客、知床連山への登山者、知床半島先端部の漁業者の生活物資や水産物の輸送を主とする。

  ②幌別台地と羅臼を結ぶ知床横断鉄道(本格的な山岳鉄道)
  知床横断鉄道は、国道334号線に代わる路線とし、自動車の通行に伴う自然へのインパクトを現在、将来にわたって軽減することを目的とする。したがって、①に比べ、観光客の輸送に重点が置かれるが、羅臼町とウトロ地区や斜里町との文化的な交流を支える役割も小さくない。従って冬期間の運行可能性も視野に入れる。
 横断鉄道の輸送対象は知床峠への観光客、羅臼湖への登山者、羅臼・ウトロ間を移動する観光客、さらに知床財団や行政関係者、地元で自然環境について学習している高校生などが主になる。

3.各論
3-1.車両
  車両は、整備の利便性やコストの低さを考えて動力集中方式にする。動力は、環境への負荷を考慮すると電気が望ましい。しかし、景観への影響を抑えるためには架線を用いない方が良い。これらのバランスをとるために、ディーゼルエンジンを電気によるハイブリッド機関車を新たに開発する。ハイブリッド機関車は、まだ実用化されていないが、この点は最新の技術を集約してこの鉄道の最大の特徴として位置づけたい。

3-2.登坂方式
 幌別台地・羅臼間は、距離が短い。また、知床峠の景観を楽しむ目的の乗客も多いと思われるのでそれほどの高速は必要ないと考えられる。
 したがって、急勾配への対策としては技術が確立されているアプト式がふさわしい、と思われる。また、羅臼側の急峻な地形への対策としてはループ式も併用せざるを得ないだろう。鉄橋を多用することで冬期間の運行も可能になると考えられる。

3-3.運行期間
 観光を目的に考えると冬期間の運休もやむを得ないようにも思われるが、冬期間の魅力を積極的に売り込むためには通年運行が望ましい。生活路線として定着させるためにもこのことは重要である。
 国道を廃止し、その跡を利用して敷設する路線であるから、自動車との差を明らかにするためにも冬期間の運行確保は不可欠である。

4.まとめ
 ローカル線が「赤字」を理由に次々に廃止されていった中で、新しい路線の建設など絶対にあり得ないことだろう。「現実」にはほぼ実現不可能なことがらに違いない。実現できないからこそそれは夢であり、人は夢によって生きるエネルギーを得てきた。
 しかし、「知床鉄道」は、突拍子もない夢ではなく、実現可能性のある夢なのである。
 社会的な価値観がほんのちょっと変化するだけで、このプロジェクトは現実に走り出す。外国には同じような鉄道路線が存在しているし、知床に鉄道を敷きたい、と願い続けてきた人々は少なくない。「瓢箪から駒」という言葉もある。
 ここで論じたプロジェクトは、個人のささやかな思いつきであって、もっと具体的に「知床鉄道」の計画を描いている人もいるはずだ。そのような人たちが、いろいろな機会に夢を述べ合うことで、「知床鉄道建設計画」は埋み火のようにこの土地でいつまでも息づいていくだろう。
 知床半島は海底火山が造った半島である。知床の山々の地下には、今も火山のエネルギーが眠り続けている。そんな密かに息づく地球の熱い息吹とともに、「知床鉄道」の夢も、永く語り継がれていってほしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿