2009年4月5日日曜日

シマフクロウと写真愛好者たちと

 先日、シマフクロウの保護・増殖活動をしているNPOの理事会が開かれた。

  シマフクロウは、魚食性の大型のフクロウで、かつては北海道のほぼ全域に生息してた。森林の伐採で繁殖に必要な大木が減り、河川の改修やサケ・マスの河口部での捕獲、などによって、生息数が激減し、一時は道内に数十つがいしか残っていないのではないか、と言われた。現在でも百羽余りが生息してるに過ぎず、絶滅に瀕していることに変わりはない。簡単に言うとタンチョウよりももっと少ない個体数しか生息していないのだ。
 シマフクロウの保護・増殖活動は、環境省が直接行っている事業ではなく、特別に高い志を持つ一般の市民の活動に依拠している。
 僕の友人も十数年前に勤めを辞め、道東に移り住んでシマフクロウの保護と増殖に取り組み始めた。やはり、全くのボランティアである。しかし、個人の活動にはいくつかの限界がある。
 第一は資金の問題。保護/増殖活動には、餌となる生きた魚の購入、巣箱の設置など莫大なお金がかかる。しかし、個人で集めることのできる寄付には限界がある。
  第二は時間の問題。絶滅しかかっている種を復活させるためには数十年、時には数百年にも及ぶ時を必要とする。一人の人間の寿命をはるかに超えたスケールの時間が必要なのだ。
 とても個人で対応できるものではない。

 そこで、彼は、昨年NPO法人を立ち上げて大口の寄付を集めることと後継者となる人材の育成に取り組み始めた。これは、画期的なことだった。僕も積極的に協力していくことにした。
 このNPOの活動は、多くの寄付によって支えられているのだが、いくつかの困難な問題にも直面している。その最大のものは、保護・増殖活動を行っている場所を明らかにできない、ということである。原則的にはその市町村名さえ明らかにすることがはばかられるのだ。
 その理由はカメラマンである。絶滅に瀕している鳥の写真を撮りたい、という写真愛好家が多すぎるのだ。もし、その生息場所を明らかにしたならば、おそらく数十、数百のヒトが大型レンズを抱えて集まり、シマフクロウが現れるとフラッシュの連射を浴びせることになるだろう。タンチョウを狙って冬の阿寒町や鶴居村に集まる写真愛好者の群れを見ると、このような結果は簡単に予想できる。
 もちろん中には、謙虚な気持ちを持ち、真摯な態度で自然と向き合うカメラマンもいると思うのだが、つい目についてしまうのは、自分の望む写真さえ撮ってしまえば後のことはお構いなし、というモラルを持たない写真愛好者たちである。

 このことによって、NPOの活動に必要な資金を集めることにも若干の支障が出るのだ。つまり、「自分の寄付したお金の使い道が明らかにされないような団体には寄付できない」という声が上がるのだ。この考えにも一理ある。
 だから、結果的にはシマフクロウの現状とそれを取り巻く世間の現状を十分理解し、寄付金の使途がそれほどハッキリと知らされなくても構わない、という個人や企業にしか頼ることができないのだ。
 もちろんNPOの側も全てを秘密主義にするのではなく、可能な限り情報を公開するよう努める必要がある。だが、それには限界があるということも理解して欲しい。

 上から目線で「金を出す以上、何でも知る権利がある」と居直るような態度(最近、この手の権利主張がやたら目につくのだが)には、何となく近寄りがたい、または与しがたい距離を感じる。

0 件のコメント:

コメントを投稿