2011年9月6日火曜日

ムックリの音色 心から心へ

 31日、前ユネスコ事務局長 松浦晃一郎さんを迎えた羅臼町の歓迎交流会で、阿寒湖のムックリ奏者、アパッポさんと彼女のお姉さんカピウさんよる演奏を聴いてもらった。

 松浦さんは、世界無形文化遺産の設立と推進に情熱を注いだ人であり、能や歌舞伎とともに琉球舞踊やアイヌ民族の舞踊も無形文化遺産に指定されている。
 そのような事情からか、久しぶりに訪れた北海道でアイヌ民族の文化に直に触れたいと強く希望されて、この演奏が実現した。

 僕にとっては、彼女たちの演奏を聴くのは、二回目だった。

 歌とトンコリの演奏、ムックリの演奏が行われた。どれ一つとっても民族の伝統をしっかりと受け継ぎながらも、美しいハーモニーや力強いリズムにあふれた若々しい新鮮さを感じられる素晴らしい演奏だった。

 演奏の半ばでムックリの演奏が始まった。
 僕は、聴きながら目を閉じていた。突然、涙があふれてきて、ちょっと慌てた。

 実は、以前にモンゴルへ行ったことがある。僕を招いてくれた家のお母さんが国立劇場で行われているモンゴルの歌と踊りのショーに連れて行ってくれた。
 それはモンゴルを去る前日のことだった。
 目をつぶってホーミーの演奏に聴き入っていると、突然草原の風景がまぶたに浮かんだ。 それはフラッシュバックのような現象だった。
 モンゴル式の鞭で馬を駆り立て、草原を疾走した時のことが甦ってきた。
 気がつくと、大量の涙が目からあふれていた。
 なぜ、涙が出たのか、自分でもわからない。いまだにわからない。
 しかし、ホーミーの倍音とリズムが、身体の奥の何かを呼び覚ましたのだろう。
 ホーミーはモンゴルの草原によく似合っている。

 ムックリの音色にも倍音が含まれているように思った。それは、もちろん演奏者の技術が優れているからだ。
 ムックリの音色もホーミーの音も、複雑な機器を通すことなく、人の身体を使って奏でられた音楽で、その場所の風土や環境と強く結びついているからだろうか。
 そのために、聴く人の心にも自然に入り込んでくるのだろう。

 ムックリの音色はアイヌモシリ(北海道)の森と湖を思い出させてくれる。
 一時期、屈折した思いを抱いて悶々と過ごす日々が続き、毎日のようにチミケップ湖に通ってカヌーを漕ぎ続けた時期がった。
 その時、湖上から見た風景が思い出されるのだ。
 正直なところ、モンゴルと同じことを羅臼で体験するとは予想していなかった。

 遠い道を、羅臼まで演奏に来てくれた姉妹に感謝したい。

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