2012年4月29日日曜日

夜の阿寒湖畔、森の片隅で時空を越えた芸術の交感

28日夜、阿寒湖のアイヌシアター「イコロ」へ出かけた人は、シアターの名前の通り大変な宝物に出会ったことになるのではないだろうか。

「イコロ」のグランドオープン前夜祭として上演されたのジョイントコンサートというよりもコラボレーション。
 それぞれの芸術が一体となった。

 ハワイ在住の現代舞踏家、那須シズノ
 アメリカのヴォーカルアーティスト、リアノン
 阿寒湖アイヌコタンの阿寒湖口琴の会
 セネガルのパーカッショニスト、オマール・ガイ
写真家、ジャンネ ワトソン


 新しく建てられた「イコロ」のステージは、低い舞台の前にせり出した空間を半円形にこむように座席が配置されている。木の香りも新しい。
ステージ奥のスクリーンにワトソンさんの写真が大きく映し出されている。それは、蛇紋岩の露頭にも見える写真だった。
 やがてトンコリの演奏に乗って舞踏が始まり、途中から客席にいたリアノンさんが歌い出す。「歌」というより、その前半部は、意味を持たない「音」あるいは「声」である。それは、言葉の壁を越えて伝えられる情念であった。
 「歌から言語が抜き取られると、『言葉による芸術』は成り立たなくなるか?」漠然とそんなことを考え始めたとき、彼女の声の中に英語が混じり始めた。
 それは、霧の中の物の形が少しずつ見えてくるように、言葉が歌の中から浮かび上がってくるような、不思議が現れ方だった。
 そしてムックリの演奏、アフリカのドラムが加わり、徐々に融合していく。
 

 密度の高い演奏会が終わり、外に出ると、月齢9日、上弦前夜の月が木星とともに天頂に近くに浮かんでいた。
 その下には黒々と阿寒の森。その夜、僕らが眠った場所は、森の一隅だった。

 人間は、互いに憎み合い、利己的で、争いや差別や搾取を繰り返し、いつまでも佳い方向を向かないと思い知らされることが多く、失望を味わう日々に疲れた心が、慰められた夜だったと思う。

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