2012年5月24日木曜日

クマ住む町で思うこと

羅臼では、街でお酒を飲み、家まで歩いて帰る。
 羅臼の僕の家は、山の上にある。ホンの数百メートルだが、知床の夜の山道を歩かなければならない。ヒグマと遭う可能性は、小さくない。正直なところ怖い。だから飲み歩く時、できれば熊撃退用のスプレーを手放したくない。
 「現代の日本で、熊スプレーを持ってお酒を飲みに来るなんて、われわれくらいのものだろうな」と話して笑い合っている。

 渋谷の地下鉄駅構内で、人が刺される事件があった。今日、生徒とそのことを話題にした。
 電車で隣の席に座った男のバッグにナイフが忍ばされていて、突然それを振りかざして襲いかかって来るというのは、とても怖いことだ。
 「間違いなく知床のヒグマよりも何倍も怖い。」
 「ヒグマの襲撃には理由があるし、こちらが襲う理由を理解し、回避すれば、襲撃はほ  ぼ避けられるが、ヒトがヒトを襲う理由は理解不能で見当がつかない。」
 生徒達は異口同音にこのようなことを言っていた。
 同感である。

 ちょうどその時、不審者情報が伝えられた。
 「今日の昼前に、根室市のコンビニエンスストアに刃物を持った男が押し入り、現在   も刃物を持って逃走中」という内容だった。
 
 ヒトはクマより怖いと話した直後だっただけに、皆、納得してその話を受け止めた。


 以前、蝗害(こうがい)について調べたことがあった。
 蝗害とは、トノサマバッタなどバッタ類が大量発生することで起きる災害である。
開拓期の北海道で良く起こったそうだ。十勝地方には、それを記録した「蝗塚」があちこちに建てられている。
大量発生し、餌を求めて集団で移動する現象を「飛蝗」(ひこう)と呼び、この群生行動では、水稲や畑作作物などに限らず、全ての草本類を数時間のうちに余すところ無く食べ尽くしてしまうという。そのために昔は、ヒトの食糧が底をつき、餓死者が出るほどの深刻な飢饉に陥ったという。
群生行動をするバッタ(群生相)は、単独行動のバッタ(孤独相)に比べて、次のような違いがみられる。
体色が暗色になる。
翅が長くなる・・・・・飛ぶ力が強まる。
頭幅が大きくなる・・・顎の力が強くなる。
その他、触覚の感覚子の数が減少していたり、胸部の形が変わっているなど、同じ種類の昆虫とは思えないほどの大きな違いを見せる。

これは、バッタの細胞に孤独相用の遺伝子のセットと群生相用の遺伝子のセットの二セットがあらかじめ準備されており、バッタの生育過程で一定以上の個体密度になった時に群生相用セットが働く仕組みがであがっているためだろう。

 ヒトも、自然界から切り離され、かつて経験したことのないほど異常な高密度で生活することを強いられて、働く遺伝子のセットが変化するということはないだろうか。

たしかに、これはヒグマより怖いことかも知れない。

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