2012年10月24日水曜日

多文化共生の時代に

 先週末の休日、散歩中にヤナギタケを見つけた。  笠の裏のひだが濃い茶色で、ちょっと見たところ食べられるかどうかアヤシイのだが、バター焼きにすれば美味しい。  カヌーで川を下りながら、川の上にせり出したヤナギの枝や幹に生えているものをよく食べていたので、他の種と間違えることはない。  数少ない「自信を持って食べられるキノコ」の一つである。  標準和名はヌメリスギタケという。  キノコや魚など身近で食材などに利用されている生物は、名前をたくさん持っている。一種類の生物に名前がたくさんあれば、混乱が生じ研究活動を進める時に障害になる。そのために統一した名前が必要で、それにはラテン語またはラテン語化した言葉で学名として記述される。そして、名前の付け方は「国際生物命名規約」で厳密に決められていて、研究者はそれを使っている。 日本国内では「標準和名」というものが決められていて、図鑑や論文に用いる時に一定のガイドラインとして各学会で決められた名前が使われている。  標準和名を「正しい名前」、それ以外の伝統的に使われてきた呼称を「俗名」とか「間違った呼び方」などと表現する傾向が一部にある。  研究者が学術的な場面で用いるためには、共通の標準的な呼称は必要だと思うが、その生物と永い関わりをもっていた人々の間で使われている名前も、それなりに「正しい」名前ではないか、とふと考えた。  そう言えば昔、共通語(断じて標準語ではない。日本語に「標準語」は存在しない)を「正しいきれいな言葉」とし、方言を「間違った汚い言葉」と蔑んだ時代があった。今でも少し残っているかも知れない。  われわれは、もう少ししなやかな感性を身につけて、互いの違いを認め合う文化を育てた方が良のではないだろうか。  これから多文化共生の時代だと思うのだ。  僕にとっては、これからも「ヌメリスギタケ」は、「ヤナギタケ」なのである。

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