2012年12月21日金曜日

冬至の夜の物語

今日は冬至です。  知床の山奥の森も深い雪におおわれています。  雪を被ったクマザサの下には所々すきまができ、そこはエゾアカネズミのすみかになっています。ネズミたちは、夏の間、いっしょうけんめいにたくわえたドングリやクルミを食べて冬を過ごします。夜になると雪の中に掘ったトンネルを通って雪の上に顔を出し、オオウバユリやハンノキの種などを探します。たくわえる食べ物を少しでも増やして、春を待つのです。この季節、ネズミを狙うキタキツネは主に昼間に活動するので、夜の間はキツネに襲われる心配はあまりないからです。  でも、夜はお腹を空かせたフクロウが高い樹の上からネズミをさがしています。時には樹の上から音もなく舞い降りてトンネル中のアカネズミを襲うこともあります。  アカネズミは、用心深くトンネルを登って雪の上で餌を探し始めました。  その時、サクサクサクサクと軽やかな足音が近づいてきました。アカネズミはすぐに向きを変え、巣穴に飛び込みました。そして、深い所にあるあるねぐらに戻ってじっと動かなくなりました。  足音はますます近づいてきて、雪に鼻先を突っ込んで臭いを嗅ぐ息づかいも聞こえます。どうやらキタキツネが近くに来たようです。よほど食べるものがないのか、夜中だというのに、まだ森の中をウロウロしています。臭いを頼りにネズミを探しているようです。  キツネはネズミのいる場所を探し当てると前足で勢いよく雪を掘って、隠れているネズミを捕まえてしまいます。これ以上キツネが近くに来たら急いで逃げなければなりません。  エゾアカネズミは全身を硬くしてキツネの足音に注意を集中させました。足音はますます近づいてきます。  やがて、足音はネズミのねぐらの真上で止まりました。そして、雪に鼻を突っ込むザッという音、臭いを嗅ぐフッ、フッという音がしました。  ネズミはますます身体を硬くし、息も止めてじっとしています。頭の中では、いつ逃げ出すかということだけを考えています。  キツネが雪を掘り始めて、見つけられてしまうのも危ないし、逃げるために雪のトンネルを走り出す音を聞かれるのも危険です。  緊張の時が過ぎていきます。  やがて、キツネはサクサクサクサクという足音を立てて、離れて行きました。  エゾアカネズミは、小さな息をフッと吐いて緊張を解きます。  知床の森、冬至の夜の誰にも知られぬできごとです。 (この物語はフィクションです。実在する生物とはすごく関係があります)

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