2013年1月24日木曜日

流氷の禁止事項  流氷百話 25/100

 日本の学校では夏休みや冬休みなどの長期休業の時、生活についての注意事項を児童生徒に与えるのが普通である。「早寝早起き」とか「夜は○時には就寝する」とか煩わしいほど細かな注意が並べられている。  オホーツク海沿岸にある学校では「冬休みの生活の注意」の一つに「流氷に乗らない」という項目を入れることが多い。この注意事項を初めて見た時、僕は理由もなく嬉しくなった。当たり前だがこんな注意を掲げている学校は、流氷の来る地方にしかないだろう。  流氷に乗ることは、なぜいけないのか。当然、いくつかの危険が伴うからだ。  まず、海に落ちる危険が考えられる。  海岸線がわからなくなっていることも多い。場合によっては氷の上を数キロメートルも沖まで歩いて行けることもある。流氷原は一面に凍りついているように見える。しかし、基本的に氷盤が集まって出来ている流氷原には、氷盤と氷盤の境目に隙間があり、その部分の海水が凍って一見しただけでは厚い部分と区別できない場所もある。誤ってそんな氷を踏み抜いたらその下は、海なのだからきわめて危険なことだ。  次に、流氷に乗ったまま流されてしまう危険もある。  見渡す限りの氷原で微動だにしないように見える氷も強い風が吹けばあっという間に吹き流される。わずか数百メートル沖まで歩いて出た時、急に風が変わるということも十分にありうることだ。  さらに、天候が急変して視界が失われ陸のある方向がわからなくなるということも考えられる。  とにかく流氷の上は危険がたくさんということで、「流氷に乗らない」という注意事項ができたというわけだ。  だが、禁止されている事こそ楽しみは深い。凍った海の上を歩くのは、たいへん楽しい。なにしろ流氷がなければそこは海なのだ。  船にでも乗らなければ絶対に行かれない場所に自分の足で行ける。こんな楽しいことはない。 前任校での授業で凍った海を渡って砂嘴(さし)から砂嘴へ海上を歩いて渡ったことがあった。もちろん十分な安全確認をしてからのことだ。生徒たちは異様なほど喜んでくれた。禁じられたことを実行できる悪童のような心理も手伝ったからなのだろう。  今でも時々思い出す流氷の思い出だ。

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