2013年3月29日金曜日

シカよ! いつか、また、どこかで・・・月夜のできごと

僕自身の不注意から一昨日、馬が体調を崩してしまった。友人から質の良い柔らかな草を分けてもらってきて与えていた。 馬の様子や食べ方を観察しながら少しずつ食べさせていた。夜、寝る前に馬の所へ行った時のことだ。  最初、  「あれ?馬が2頭になっている」と思った。国道の街灯からの光に巨大な影が二つ並んでいたのだ。一つは我が家の馬だ。  もう一つは、注意してみると頭から高々と角がそそり立っている。まぎれもなく雄のエゾシカなのだが、その大きさは信じられないくらいのものだった。  これまでに嫌と言うほどシカを見てきたし、大きな雄ジカにも何度も遇ったことがある。しかし、その雄は間違いなくかつて見たことのない大きさに見えた。  思わず足が止まった。 やがて馬の方に近づく僕に気づいて、シカはゆっくりと離れ、遠ざかりはじめた。その歩みはどこまでもゆったりと落ち着いてた。それは、決して重い体重によって雪に足を取られているためではないと思った。  僕は馬のいる所へ近づく。シカは僕から斜めに遠ざかる。  が、途中で足を止め、振り返ってこちらを見た。目が合った。その距離60メートルくらいか。僕も睨み返す。  実際の時間は1分足らずだった思うが、それが5分にも10分にも感じられるほど長い睨み合いだった。  エゾシカによる被害は激しく、我が家の牧草地もあちこちが掘り返された。庭に植えてあるリンゴやヤナギの樹皮はことごとく食べられ、樹木は青息吐息だ。これから出る草の新芽も壊滅的に食べられるだろう。雲霞のごとく姿を現すシカの群れに対して、正直なところ憎しみを抱いてしまうし、実際に何とか対策は立てなければならない。  しかし、考えてみれば北海道の森林で生活していたエゾシカという哺乳類は、人間が暴力的に改変した環境の影響で生息数を急に減らしたり激増させたりしてきた。つまり、シカたちもニンゲンに翻弄されてきたわけだ。 その狩猟規制の経緯を大まかに振り返ると 1980年(明治23年)全道で捕獲禁止 1900年(明治33年)捕獲禁止措置解除 1920年(大正9年) 全道で捕獲禁止 1957年(昭和32年)一部地域で雄ジカのみ捕獲禁止解除 1975年(昭和50年)牝ジカの有害駆除開始 という具合にめまぐるしく変わっている。  ハンターの立場から見れば獲物。  農業や林業からは害獣。  観光客からは間近に見られる野生。  ニンゲンの側からは、その立場によって見え方が様々に変わる多面体だ。 そんな「見え方」などとは全く無関係に、僕と睨み合っていた巨大な雄は、静かに向きを変え、林の中に消えて行った。  その威圧的とさえ思えたその視線を跳ね返しながら、いつか倒さなければという思いとそれとは正反対の尊敬にも似た感情が涌いて来るのを感じた。  月夜の雪の原での忘れられない経験である。

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